奥泉光『鳥類学者のファンタジア』

  • あと300ページくらい、フォギーの「旅」を読んでいたかった

鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)

鳥類学者のファンタジア (集英社文庫)


奥泉光って、これが初読でした。
山田詠美好きとしては失態だと思います。
(なぜなら、奥泉光島田雅彦は2大「お友達」作家なので)
島田雅彦は何冊か読んでるんだけど、
奥泉さんのほうには、なぜか手を出してなかったのです。
なんかねー、タイトルとかから受ける印象がね。
小難しいのかしら。って感じだったんですよね。
いやー、とんでもなかった。失礼いたしました。

「フォギー」ことジャズ・ピアニストの池永希梨子は、
演奏中に不思議な感覚にとらわれた。
柱の陰に誰かいる。
それが、時空を超える大冒険旅行の始まりだった。
謎の音階が引き起こす超常現象に導かれ、
フォギーは1944年のドイツへとタイムスリップしてしまう。
物語とジャズの魅力に満ちた、ファンタジー巨編。


物語はフォギーという女性ジャズピアニストの語りで進むんだけど、
このフォギーの一人語りが独特で、すごくツボでした。
なんていうんですかね。基本的に緊張感がないんですよ。(褒めてます)
最初は分厚さにひるんだ部分もあったのに
この語りがあまりにもしっくりくるので、
もう、このまま事件なんて起きなくていいから
一人語りをしていてくれ!!と思うくらいでした。
(っていったって、時間旅行なんて大技が起きてしまうのですが。)


時間旅行ですよ。そのうえ、1944年のドイツですよ。
「1944年のドイツで」フォギーは降霊会に出席したり、
ナチスの尋問にあったり、自分の祖母に出会ったり
ちょっとしたロマンスがあったりといろんな体験をするんだけど、
この異常事態理解してる??というくらい
終始あっけらかーんとしています。
一人語りの文体といい、その自然体といい、
ボケてるんだか度胸がいいんだかわからない。
(ついでながら、そういう素質はフォギーがジャズピアニストである
という設定となにかしら関連があるように思う。)


フォギーのキャラクターがこんな感じなせいなのか、
周りの人もなんというか、変。
佐知子ちゃんにしても加藤さんにしても、
1944年のドイツにフォギーがいることに全然驚きを示さないの。
「あ、そうですか。それでですね、」くらいのリアクション。
単に「度胸の良い人」とかは通り越して、なにか数本ネジが取れてる感じ。
・・・いや、違うところにネジを使っちゃった感じか。
そんな感じで、途中まではにやにやしながら読めるんだけど
さすがジャズというべきか、最後に来て急に盛り上がりを見せるのです。
フォギーって(そして、たぶん奥泉光自身も)、前半部分の語りから想像するに
ものすごーく照れ屋さんなんだと思うんですけど、
それと同時に、激しくロマンチストなんだなあ、ってことがここでわかります。
ニューヨークのシーンなんて、ジャズを愛する人の妄想爆発!
という感じです。
それまでの突っ込みどころ満載な展開から一転するのに違和感もなく、
読んでるだけでこっちのテンションもあがってくるという
すばらしいクライマックスでした。


ジャズが好きな人。猫が好きな人。なんとなく、気になった人。
ぜひぜひぜひぜひ!読んでみてください。
音楽にそれほど詳しくなくっても、相当アドレナリン出ると思います。