乙一『暗いところで待ち合わせ』

暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)

暗いところで待ち合わせ (幻冬舎文庫)

  • ミステリとしても、物語としても綺麗


久しぶりの乙一
これまたSNS「やっぱり本を読む人々。」の企画によるおススメ本です。
この人って、ものすごーく切ない、繊細な物語もあれば
読むのが苦痛になるほどの残虐な作品を書いていたりする。
どっちの場合も上手なのは確かなんだけど、
いわゆる「黒乙一」はあまり得意じゃなくて
結果的に読んでない作品がかなりある。
本作も、うっすらと「良いらしい」とは聞いていたけど、
なんとなく読んでなかった。
この企画でおススメされてなければ読まなかった気がする。
読んでよかった。


ある事件の犯人として追われる男。
逃げるところのない彼は、目の見えない女性が1人で暮らす家へ入り込み、
彼女に気づかれないように息を潜めて暮らす。
いっぽう、1人暮らしの家の中で、他人の気配を感じた盲目の女性。
怖いけれど、騒ぐとどうなるかわからないので、気づかない振りをする。
それぞれが「相手に気づかれないように過ごす」奇妙な同棲生活。


読み始めてすぐにこの設定が示される。
乙一だからなぁ…。どんな展開もありえるなぁ。
と、やや警戒しながら読んだけれど、
実際にはこんなに素敵なお話になるんですね。やっぱり乙一はすごい。


ミステリ的にはヒント!それ超ヒント!って描写もあり
そうかと思うと、最後に明かされる真相は、ちゃんと意外性を持っている。
良質なミステリ成分と、決して「ただのミステリ」ではない物語。
はじまりの事件が事件なだけに
「すがすがしいお話」ではない部分もあるけれど、
読み終わったとき、いいお話だった!と思えた。