沢村凛『カタブツ』

カタブツ (講談社文庫)

カタブツ (講談社文庫)

  • 愛すべき"カタブツ"たちの短編集

SNS「やっぱり本を読む人々。」の企画によるおススメ本。
(最近、基本的にこのライン上で本を読んでいる気がするけど
他の本・・・いつ読もう。)


『カタブツ』。その名のとおり、主人公はみんな真面目な人たち。
現実社会に普通にいそうな人たち。決して目立たない人たち。
そんなカタブツたちの日常を描いている。
ただし、主人公=カタブツという共通点はあるけれど
それぞれのお話の種類がまったく違う。
意外だったり、ひやっとしたり、にやっとしたり。
うーむ、この作家さん、デキるじゃないですか!
言ってしまえば地味なこの設定で面白いお話が書けるのは実力ですなあ。
以下、収録作の紹介。


まずは「バクのみた夢」、カタブツの既婚者2人が恋に落ちてしまう。
2人は周りに迷惑をかけないで恋を終わらせるために
"どっちかが死ぬしかない"という結論を下す。
いくらカタブツとはいえ、極端!と思ったらこれ、
ラストがいいですね。
そんなん、イエスと言うしかないじゃないか(笑)。
「袋のカンガルー」の主人公は、よく言えばNOが言えない、
面倒見の良い性格。
その反面、相手を甘やかしたり、周りに利用されてるともいえる。
この彼、結末はそれでいいのか!と言いたくなる。
でも、こういう人なんだろうなぁ。
「駅で待つ人」は、人の待ち合わせ風景―というか
"誰かを待っている人"を見ることが趣味(!)のカタブツが
自分の"理想の待つ人"を見つける話。
理想の人につけるニックネームは素敵ですが、これはちょっと怖い。
「とっさの場合」の母親は、自分の反射神経がにぶいので、
いざという時に幼い息子を危険から守れないのではないかと恐れ、
それが高じて強迫観念症っぽくなってる。
マリッジブルー・マリングレー」の主人公は例によってカタブツ。
婚約者の実家に挨拶に行ったところ、
はじめて訪れる婚約者の地元でデジャブを覚える。
ここで3年前に殺人事件があったと聞いて青ざめる彼。
実はこの彼、交通事故の影響でまさに3年前のその週末の記憶がないのだ。
もしかして、カタブツの自分が事件に関係しているのかも?
これの読後感はちょっとひんやり。
個人的には最後の「無言電話の向こう側」が一番良かった。
ちょっと変わってるけど、悪いやつじゃない友人。
いろいろなことにに自分なりの理屈を持っていて、
一見つきあいづらいけど、仲のいい友人。
その友人がなぜか職場でみんなから孤立している、その理由は?
余談ながらこの話に出てくるカタブツは、ずばりタイプです(断言)。


沢村凛は、私の偏った読書傾向にはいままで入ってこなかった作家で
マイナーといえばマイナーなのかもしれない。
でも調べたらこの人、ファンタジーノベル大賞出身じゃん!
しかも恩田陸が『六番目の小夜子』で最終選考に残った時
一緒に最終選考組として残ってるじゃん!
実力は証明されてたも同然ではないですか。
これは不勉強でした。