米澤穂信『氷菓』

氷菓 (角川文庫)

氷菓 (角川文庫)

  • いかにも青春ミステリ。古典部シリーズ第1作

さよなら妖精』『インシテミル』などなどでおなじみ。
先ごろ野生時代で特集号も組まれた注目作家、米澤穂信のデビュー作です。
古典部シリーズは今のところ4作出ているんだけれども、
刊行順に読むことを強く推奨します(自分はバラバラに読んじゃったけど)。


シリーズの基本骨格は、「古典部部長:千反田えるの好奇心に引きずられ、
省エネ探偵ホータローが高校生版"日常の謎"を解いていく」というもの。
森博嗣のS&Mシリーズに近い・・・かな。


"やらなくてもいいことなら、やらない。やらなければいけないことは手短に"
というモットーを掲げる自称「省エネ主義」のホータロー、高校1年生は
同じ高校のOGであるお姉ちゃんに「廃部寸前の古典部、我が青春の古典部に入部しなさい」
と一方的に(手紙で)命じられ、しかたなく古典部員となる。
1人で部室使えてラッキーとか思っていたのに、
気づいたら部員は合計4名、1年生ばかり。
ホータローは、彼の探偵としての腕を見込んだえる嬢から、
「える嬢の伯父であり古典部OGだった関谷純のことを調べて欲しい」
という依頼をされる―。


高校が舞台のお話ということで、ミステリといえども血なまぐさい話はない。
血なまぐさくはないんだけど、える嬢の伯父さんに起きたことは、苦いです。
構成がしっかりしてるところが、この作品の強さだなぁ。


古典部シリーズは高校生のお話で、きっとキャラクターの成長を描くのもひとつの要素。
そのせいか第1作となるこの作品には、青い描写がいっぱいです。
ホータローのもったいつけたキャラは、『さよなら妖精』の主人公を思わせる。
ホータローとは別の意味で屈折してる、親友の福部里志
わたし、気になります」と言い張って譲らない天然お嬢様キャラ千反田える
福部里志と一緒にいるためだけに古典部に入部した伊原摩耶花
2作目、3作目と読んでいくと彼らに親近感が沸くんだけど、
この1作目だけではいまいち設定が薄いかなぁ。
手紙でしか登場しないホータローのお姉ちゃんのほうが、よほど魅力的。
ちなみにこのお姉ちゃん、今後も古典部シリーズに登場します。
本作で彼女が訪れているのは
バラーナシー(インド)、ニューデリー(インド)、ベイルート(レバノン)、
イスタンブール(トルコ)、プリシュティナ(コソボ)、
そしてサラエヴォボスニア・ヘルツェゴビナ)。
外務省の海外渡航危険情報に出てそうな場所ばかり。大丈夫か?
省エネのホータローはきっとお姉ちゃんにエネルギーをもってかれたに違いない。
ドラえもんとドラミちゃんのような感じで。


そんな1作目。これだけだと「ふーん」で終わりかねませんが、
古典部シリーズは3作目『クドリャフカの順番』を読むまで評価を保留して欲しい。
俄然面白くなりますから。