サイモン・シン『フェルマーの最終定理』

  • 話題になったのも納得!数学をここまでおもしろく説明する本はすごい

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

フェルマーの最終定理 (新潮文庫)

ええと、中学生の時からの筋金入りの文系です。
文系というよりは、「理数系ができないので文系」という消極的文系です。
まず、高校数学が理解できてません。
微分とか聞くだけで走って逃げたくなります。
(高校1年の時の数学の教師がすっごく嫌いで、彼の話を聞きたくなくて
内職に徹していたらほんとにわからなくなったという経緯があります)


そんなていたらくですので、『フェルマーの最終定理』はタイトルからし
得意な分野の本ではありません。
遠い昔に「おもしろいらしい」という噂を聞いたことがあったんだけど、
一瞬で黙殺してしまいました。
理数系の話題と思うだけで、長い時間をかけて醸成された反射神経が働いて
スルーしてしまうのです。
ただし、論理パズルは割と好きでして、簡単なものなら
とりあえずトライするほう(あくまでも簡単なものに限りますが)。
あと、小説読みのサガとして、なにかしらドラマがあると入りやすい。
セアラでしたっけ?16歳くらいで公開鍵暗号の研究をした女の子。
彼女の本は、簡単な数学パズルがたくさんあって、
お父さんとのやりとりで彼女の研究が進んでいくさまがよくわかり、
読み物として楽しかった。


上記のようにお粗末な読者である私にも、この本はとても面白かったです。
数百年前から現代に至るまでに現れた数学者たち。
彼らの人生が個性的すぎて。
ディオファントスなんて、墓碑銘が数学パズル。
※正確には、彼の生きた年数を求める一次方程式です。
どんだけ数学好きなのかと。解いてみたけど。
あと、言っちゃなんだけど、フェルマーってやなヤツですよね。
「こういう定理を証明しました。でも証明過程は書きません」
とか書き残してるんです。ただの感じ悪いヤツじゃないですか。
こういう思わせぶりな上司いたなぁ。誰とは言わないけど。

ディオファントスの墓碑銘:
このみ墓にディオファントスの眠りたまう。ああ、偉大なる人よ。
その生涯の六分の一をわらべとして過ごされ、十二分の一の歳月の後には
ほぼ一面にひげがはえそろい、その後七分の一にして華燭の典をあげたまう。
結婚ののち五年にして、ひとり息子を授かりぬ。ああ、不幸なる子よ!
父の全生涯の半分でこの世から去ろうとは! 父、ディオファントス
四年のあいだ数の学問にてその悲しみをまぎらわせ、ついに生涯を閉じたまう。


そんなエピソードと一緒に、フェルマーの最終定理を説明するのに必要な
数学上の概念が紹介されます。
これが絶妙のさじ加減で、決して難しくなりすぎない。
でも十分に必要なことを教えてくれる。
なので、「楕円方程式」とか「モジュラー方式」がわからなくても、
フェルマーの最終定理」と「谷村-志村予想」の関係(←ちょっと頭よさそう)
がちゃんとわかる書き方なんです。
サイモン・シンさん、黒子に徹しているけどすごい書き手ですよ。
本書が話題作になったのもうなずけます。