今日の読書:式田ティエン『沈むさかな』

式田ティエン『沈むさかな』読了。

沈むさかな (宝島社文庫)

沈むさかな (宝島社文庫)

  • ダイビングの描写に優れた式田ティエンのデビュー作

このミステリーがすごい!」大賞の優秀賞だし、
帯には「青春を疾走するダイビングミステリー!」と書いてあるしで
ミステリっぽさを押し出している作品ですが、
私はダイビング小説(そんなジャンルある?)として読みましたね。
この作者、ダイビング好きなんやろなぁ。
あと、青春小説として良い、と思いました。


主人公は17歳。前の年に父親を亡くした。
いろいろなことが重なって、自分を知っている人のいないところで
過ごしたかった主人公は、夏休みに鵠沼の中華料理屋でバイトしているが
その街でばったり再会したのは、父がコーチをしていたスイミングプールの仲間だった。
彼にすすめられ、ダイビングを始めた主人公。
ダイビングにはまり始めた頃、その友人が海で死体となって発見される―。


まず、ライセンスをもってない私が言うのもアレですけど、
ダイビングの描写がすごく良い。
(私は体験ダイビング的な講習を受けたことしかありません)
ダイビングって前後がかなり面倒だけど、
潜っちゃうと、それはそれで楽しいんだよねぇ。
その感覚をなんとなく思い出す。
まあ、そう思って読んでいると、最後の方で潜るのが怖くなるんだけど・・・。
ダイバーはどうなんですかね。これ。


あとは青春小説としての要素。
主人公はかなり内省的なヤツで、あまり感情を表に出さないのだけど
いろいろなものを内部に抱えている。
この夏に出会った人や出来事が、主人公を少し大人にしてくれた。
特に好きなのは中華料理屋のオヤジかな。
こんな大人とこの年齢の子が知り合いであるというのは、
主人公にとってとても幸運なことであると思う。


で、ミステリ部分なんですが、そこだけを見ると決して面白い作品ではない。
友人の死の真相、父の死の直前に起きたスキャンダル、それらの裏には
なんとこんな巨悪が!って、相手大きすぎやっちゅーねん。
こういう、風呂敷広げまくった感じの真相ってちょっとつらいなぁ。
もすこしコンパクトにまとめても良かったんじゃないか。
ということで、主にミステリ部分の引っかかりがあって
全面的におススメ!とはいえないけれど、海が好きな人には良いかな。


あとがきでも触れられているけれど、この小説はほぼ全編にわたって
二人称を使っている。
二人称小説は確かに珍しい。
二人称で、なおかつ青春小説となれば、
思いつくのは重松清『疾走』かなぁ。
(あ、『疾走』が青春小説ってくくりはOKかしら。)
疾走よりは読後感良いです。はい。